塾長ブログ No.184 2026/10/13 生きた英語――トランプ大統領の通訳
塾長ブログトランプ大統領は、どうも僕の好みには合いません。
ですから、今日のブログでは脇役に回っていただきましょう。
外務省には「スーパー通訳」と呼ばれる職員がいます。高尾直氏。
語学の専門職ではなく、東京大学法学部を卒業したキャリア官僚です。
安倍晋三元首相から続く歴代首相とトランプ大統領の首脳会談で通訳を務め、両者の信頼関係を支えた人物として知られています。
高尾氏のすごさは、単に英語が堪能だということではありません。
天皇陛下のご即位後に、安倍首相は「日本にとっては陛下がご即位されるというのは大変な、歴史的な出来事でございます。陛下がご退位されて新天皇が即位されるのは200年ぶりのことになります。初のお客さまがトランプ夫妻になるわけですが、今から楽しみにしています」とトランプ大統領に案内しました。
高尾氏は最後のフレーズを「and also under the new Emperor, President Trump and Madam First Lady will be the very first state guest」と英訳しました。
「トランプ夫妻」という表現を、単に「Mr. and Mrs. Trump」と訳すのではなく「President Trump and Madam First Lady」と訳したのです。
相手の自尊心をくすぐりつつ、国際舞台にふさわしい品格ある言葉へ昇華させたのです。
また、自衛隊派遣などの機微に触れる難題でも、相手のプライドを傷つけない論理構成で伝えることで、首脳同士の「空気」そのものを整えてみせました。
このエピソードからわかるのは、通訳の仕事が、単なる言葉の置き換えではないということです。
話し手の意図を理解し、相手の文化や立場を考え、場面に応じた言葉を選ぶ。
言葉の行間を読み、相手に正しく、そして効果的に伝える。それこそが「生きた英語」なのでしょう。
さて、偉そうなことを言っている僕ですが、英語を本格的に勉強したのは塾講師になってからです。
文学部国文学科の出身ですから、英語は後から身につけたもの。
大学入試レベルの英文なら読み書きができ、英検準1級程度のリスニングなら何とか聞き取れるというところでしょうか。
英語を教えている身でありながら、まあ、その程度の英語力です。ごめんなさい。
それでも、長年英語を教えてきたからこそ、思うことがあります。語彙や文法を身につけることはもちろん大切です。
しかし、それだけでは、本当の意味で言葉を使いこなすことはできません。
歴史や文化への理解、相手のことを知ろうとする姿勢、そして状況に応じて適切に判断する力。
そうした知性や教養があってこそ、言葉は生きたものになるのです。
そして、このことは通訳の世界だけに限った話ではありません。
大学入学共通テストの英語の長文はもちろん、国語の評論文や小説を読む際にも、背景にある社会や文化への理解、文章に直接書かれていないことを読み取る力が問われます。知識をただ暗記しているだけでは、なかなか太刀打ちできません。
大学入学共通テストでもカギになるのは、知識の量だけではなく、その知識を土台にして文章を深く読み解く「知性」や「教養」をどれだけ身につけているか、ということなのです。
だからこそ、生徒さんたちには、英語の勉強だけにとどまらず、さまざまな本を読み、社会の出来事に関心を持ち、自分の頭で考える習慣を大切にしてほしいと思っています。