塾長ブログ No.179 2026/9/8 世界地図は本当に「正しい」の?
塾長ブログイコールアース図法を知っていますか
中学1年生の地理の授業で、必ずといっていいほど登場するのが「地図の図法」です。
高校入試の社会でも定番の問題ですね。
「メルカトル図法」「正距方位図法」「モルワイデ図法」。
生徒さんには、それぞれの特徴を覚えてもらいますが、そもそも、なぜ地球を表すのに何種類もの地図が必要なのでしょうか。
それは、丸い地球を平面の紙に完全に正しく描くことはできないからです。
そこで、それぞれの目的に合わせて、何を正確に表すのかを変えているわけです。
まず、簡単に整理しておきましょう。
それぞれの図法には「得意分野」がある
◆ メルカトル図法
16世紀に考案された図法で、航海に適しています。
緯線と経線が直角に交わり、角度を正しく表すことができるため、航海図として長く利用されてきました。
一方で、大きな欠点があります。
高緯度になるほど、実際の面積よりも大きく描かれてしまうのです。
例えば、メルカトル図法ではグリーンランドが非常に大きく見えますが、実際の面積はアフリカ大陸とは比較になりません。
◆ 正距方位図法
名前の通り、地図の中心から見た方位と距離を正しく表すことができる図法です。
航空路や、ある地点から世界各地への方向・距離を見る場合などに利用されます。
ただし、「中心から」というところがポイントです。
中心から離れた地点同士の距離や方位まで、正しく表しているわけではありません。
◆ モルワイデ図法
世界全体の面積を正しく表すことを目的とした図法です。
大陸の面積を比較したり、世界の人口分布や農業、気候などを表したりするのに適しています。
ただし、形にはゆがみが生じます。
つまり、
「角度を正確にする」 「中心からの距離や方位を正確にする」 「面積を正確にする」
というように、それぞれの図法には得意分野があるのです。
実力テストでよく出る「日本の真東はどこ?」
この図法の違いを利用して、高校入試や実力テストでは、こんな問題がよく出題されます。
「日本から見て真東にある大陸はどこか?」
これ、意外と間違える生徒さんが多い問題です。
普段見慣れている世界地図で考えると、
「日本の右側だから……アメリカ!」
と答えたくなります。
ところが、正距方位図法で東京を中心にして考えると、答えは南アメリカ大陸、チリの方向になります。東京から見た真東の方向を正しく表すと、太平洋を横切って南アメリカ大陸側に向かうのです。
ここで大切なのが、
「地図の右側=東」とは限らない
ということです。
メルカトル図法では、東京から水平に右へ線を引くと、アメリカ合衆国方面に向かいます。
しかし、これは「地球上で東京から見た真東の方向」を正確に表しているわけではありません。
この違いを理解していないと、実力テストで見事に引っかかってしまいます。
そして、これこそがメルカトル図法の特徴を理解するための、とてもよい問題なのです。
メルカトル図法には大きな欠点がある
メルカトル図法は、航海には非常に便利です。
そのため、現在でもグーグルマップやカーナビなどのデジタル地図などで広く利用されています。
国内で地図を見る分には、それほど大きな問題を感じないかもしれません。
ところが、世界全体を眺めてみると、少し話が変わります。
北極や南極に近づくほど、土地が実際よりも大きく表示されるからです。
そのため、ヨーロッパや北アメリカ、ロシアなどが大きく見える一方で、赤道付近のアフリカや南アメリカなどは、相対的に小さく見えてしまいます。
「地図なんだから、そんなことは仕方がない」
と思うかもしれません。
もちろん、地球を平面にする以上、ある程度のゆがみは避けられません。
大切なのは、その地図が何を正確に表しているのかを知ったうえで使うことです。
そこで注目される「イコールアース図法」
こうした中で、近年注目されているのがイコールアース図法(Equal Earth projection)です。
イコールアース図法は、世界の陸地の面積の比率を正しく表すことを重視した地図です。
この地図を見ると、僕たちが普段見慣れている世界地図とは、かなり印象が違います。
特に驚くのがアフリカです。
「こんなに大きかったのか」
と思う人も多いでしょう。
実際、アフリカは非常に大きな大陸です。
ところが、普段見慣れているメルカトル図法では、高緯度地域が大きく描かれるため、アフリカの大きさを実感しにくくなっています。
そして、2026年9月
ここからが、今回僕がこの話題を取り上げた理由です。
2026年9月4日、国連総会で、より正確に世界の面積を表す地図の利用を促す決議が採択されました。
トーゴが中心となり、アフリカ連合(AU)などが支持した取り組みで、投票結果は、
賛成 164か国
棄権 6か国
反対 1か国
でした。
そして、その「反対1か国」がアメリカでした。
ただし、ここは誤解しないようにしておきましょう。
国連が、
「これからはメルカトル図法を使ってはいけない」
と決めたわけではありません。
今回の決議には法的拘束力はなく、教育や公的な情報などで、土地の面積をより正確に表す図法を活用することを促すものです。
その中で、イコールアース図法などの正積図法が注目されています。
では、なぜアメリカは反対したのでしょうか。
アメリカ側は、今回の取り組みについて、地図の問題に政治的・思想的な意味を持ち込んでいるとして反対しました。また、国連はもっと重要な世界の問題に取り組むべきだ、という趣旨の主張もしています。
この問題についても、賛成・反対、それぞれの考え方があります。
地図は「世界そのもの」ではない
僕が今回、このニュースを紹介したいと思ったのは、単に「新しい世界地図ができました」という話ではありません。
僕たちが普段何気なく見ている「地図」も、一つの見方にすぎないということです。
何を正確にするのかによって、世界の見え方は変わります。
そして、それは地理だけの話ではありません。
ニュースも、グラフも、写真も、そして文章も同じです。
「自分が見ているものは、本当にそのままの姿なのだろうか?」
一度立ち止まって考えてみる。
それこそが、これからの時代に必要な「考える力」なのではないでしょうか。
中学1年生で覚える「メルカトル図法」「正距方位図法」「モルワイデ図法」。
高校入試では、単なる暗記問題として出題されることがあります。
でも、その先には、
「地図は世界をどう見せているのか」
という、とても深いテーマが隠れています。
今回の国連の決議をきっかけに、皆さんにもぜひ一度、世界地図をじっくり眺めてみてほしいと思います。
いつも見ている世界が、少し違って見えてくるかもしれません。